美術教育の危機と再⽣に向けて─学会の使命と運営の持続可能性を考える─
大学美術教育学会理事長 新関 伸也 (東海大学)
全国の教育現場では今、美術教育をめぐる静かな、しかし着実な危機が進行しています。特に国立大学における美術教員養成の現場では、教員志望者の減少、教員採用枠の縮小、大学教員の減員・不補充といった問題が複合的に絡み合い、美術を学び教える人材の育成と確保がかつてない困難に直面しています。
現場からは、中高における専任教員の不在、美術免許を持たない教員による「免外授業」の常態化、そして教員の世代交代がうまく機能せず若手が孤立する例も多数報告されています。
一方、大学においても教職課程の再編や教職大学院制度の導入により、美術教育の専門性を保障する学びの場が減少しています。制作や鑑賞、理論的探究をバランスよく育む時間や空間が失われる中で、「美術で教える・学ぶ」ことの意味が学生に伝わりにくくなっていることも深刻な課題です。
さらに地方では、大学と地域社会、教育行政とのつながりが希薄になり、かつて大学教員が支えていた研究会や公開授業、現職研修などの知的交流の機会が減少しています。教員養成の現場が地域の教育実践と断絶してしまえば、美術教育が社会と接続し、持続可能なかたちで展開していくことは困難です。
こうした状況を受け、私たち大学美術教育学会・美術部門に課された役割は、これまで以上に大きくなっています。
第一に、全国の大学、教育委員会、学校、文化機関をつなぐ連携ネットワークの構築と支援です。地域に根差した大学の取り組みや研究成果を可視化・共有し、附属学校や地域教育機関との共同研究、実践発表、公開研究会の再構築を通じて、学術と実践をつなぐ橋渡し役を担う必要があります。
第二に、政策提言機能の強化です。教員採用や教育環境の実態調査に基づき、教員定数や免許制度、教職課程における美術の専門性の位置づけについて、教育行政や関連機関に対する建設的な提言を行っていくことが制度改善への第一歩となります。現在、美術教育系学会や美術教育関係諸団体、企業が参集し結成した「全日本美術教育会議」で、次期の「学習指導要領改訂」に向けて、美術教育の意義と今後のあるべき姿を訴える「提言書」をとりまとめ、間もなく文部行政関係各位に提出する予定です。
第三に、若手教員や学生が未来に希望を持てる学びの場の創出です。ICTやSTEAM教育などを視野に入れた新たなカリキュラムの開発、現職教員との協働プロジェクト、大学間連携による公開授業やシンポジウムの開催を通じて、美術教育の魅力と可能性を広く社会に発信していくことが学会・部門の重要な使命です。
また、別件となりますが、現在、学会の持続的な運営体制の確立に向けて、業務内容の精査を進めております。次世代へと円滑に引き継げる学会運営の枠組みや、役員に対するインセンティブについても検討中であり、予算との兼ね合いを踏まえつつ、今年度中には一定の結論を出す予定です。
あわせて、美術部門の会費廃止が決定されました。これにより、美術部門に対する大学・学部の機関加盟の認識が高まり、名簿作成の精緻化に向けた一歩を踏み出したことになります。今後は、地域に根差した部門各地区会の役割が一層重要となるとともに、「全国美術部門協議会」の在り方も変化していくことが予想されます。これらの動きは、学会と地域とのつながりを再構築する契機となるでしょう。
美術教育を取り巻く現状は決して楽観できるものではありません。しかし、私たちはこれを衰退ではなく、再生への契機と捉えたいと考えます。美術教育の本質は、まさに変化の時代に発揮される創造性と応答性にあります。だからこそ、現場とつながり、対話を重ね、共に未来を構想する知的基盤として、大学美術教育学会・美術部門が果たすべき役割は今後ますます重要になると確信しています。
会員の皆さまには、それぞれの現場において、また学会や美術部門の活動を通じて、次代の美術教育を支える担い手の育成にご参画いただけますよう、心よりお願い申し上げます。