2017年

7月

11日

平成29年度 理事長挨拶

大学美術教育学会理事長挨拶

大学美術教育学会理事長 小野 康男 (横浜国立大学)

 大学美術教育学会の会員の皆さま。昨年度より学会の理事長を務めております小野康男です。ニューズレターやウェブでのご挨拶が遅れ、ご迷惑をおかけしています。所属は横浜国立大学、専門は美術理論・美術史です。
 部門と学会の関係に関しまして、前理事長の増田先生より詳しく歴史的な経緯を記した文章「日本教育大学協会全国美術部門と大学美術教育学会のあゆみ」をいただき、ホームページに掲載しておりますので、学会の会員の皆さまにはぜひとも一読お願いしたいと思います。
 さて、「日本教育大学協会」の冠が付く部門とは異なり、学会には多様な会員の皆さまに参加いただいています。増田先生の文章にあるように、学会は教育現場を軸として「美術教育及び美術の研究」を行う場です。そこでは、図画工作科・美術科教員の養成だけではなく、大学や社会も含んだ多様な研究が「教育現場」を通して互いに交通していくことが期待されています。
 教育現場(フィールド)における記述そして研究は何にもまして貴重です。現在、エスノグラフィーなど、詳細で多様な記述を基にした方法的な革新が、学問の様々な分野で進行しています。しかし、様々なフィールドが交通していくには、フィールドから理論が生まれてくること、そして過去や現在の諸理論と対話していくことが必要です。
 私が専門とする美術理論・美術史で興味深い議論がありました。フランスの美術史家ダニエル・アラスに『モナリザの秘密』(白水社、2007年)という本があります。原題は、Histoires de peinturesで、『絵画の歴史』と訳せますが、絵画も歴史もそれぞれ複数形となっています。その中でアラスは、同時代の概念・資料による理解を基本とする歴史学にとっての難問であり、時代の混交を意味するアナクロニスムに記述を割いています。アラスは、歴史学を基本とする美術史学においてアナクロニスムは避けるべきとしながらも、フランスの哲学者ミシェル・フーコーが『言葉と物』(原著1966年、邦訳1974年)において分析したベラスケスの《ラス・メニーナス(女官たち)》を取り上げ、彼がこの絵を「民主化」したと言っています。フーコーのこの分析は、その後の美術史学の研究に刺激を与え、様々な理論的領域で膨大な文章を生み出す端緒となりました。アラスは、フーコーが美術史家としてではなく、「いわば芸術家として、芸術家の哲学者」として反応したと言っています。美術のつながりをつくるのは美術史家ではなく芸術家だということです。私には、教育現場からの理論とは、この芸術家の哲学が作動する場面を考えていくことではないかと思われてなりません。