京都大会(平成25年度)

■平成25年度日本教育大学協会全国美術部門総会・協議会 第52回 大学美術教育学会「京都大会」の実施結果と大会運営委員からの御礼

村田利裕(京都教育大学)

1.大会取り組みの概要

 2013年10月12日(土)、13日(日)に京都大会(平成25 年度日本教育大学協会全国美術部門総会・協議会、第52回大学美術教育学会)を京都教育大学で開催いたしました。秋の京都はまっ盛り、宿泊等もとりにくい時期で心配しておりましたが、総数307人のご参加をいただきました。京都大会実行委員会を代表しまして、心より御礼申しあげます。また、そのうち97人(大学院生53人、学部学生44人)が学生さんのご参加でした。指導をいただいた先生方ならびに積極的な意欲でご参加いただいた学生の皆様に心より御礼申しあげます。また、本会を準備・開催するにあたり、大嶋彰学会理事長、相田隆司総務局長、佐藤聡史総務局・事務部長ならびに本部委員の皆様には有意義なアドバイスと助力をいただきました。また、近畿と四国がありますⅣ地区には、口頭発表の司会等で多大なご支援をいただきました。初田隆委員や古草敦史委員には、その中心となっていただきました。地区ブロックの心からのご支援が、我々実行委員会の大きな精神的な支えでした。

 さて、本京都大会は、「時代」を中心のキーワードに位置づけ、全体テーマを「岐路・激動の時代における感性教育の可能性 -多様な人間発達・教育現場の試み-」としました。このテーマは、子ども達を取り巻く社会や自然の環境が、過去に無いほどの大きな変動期を迎えていることに端を発します。身近なところでは時間数削減問題もありますが、美術教育は、正に「感性」と「表現」の教科として、大きな役割を果たすべき重要な段階にあるとの考えが根本の考え方でした。また、人は、どう生きるべきなのか?何をなすべきか?など生きる意味や人間存在そのものに関わる深い問いかけが必要になってきているという時代の特性も背景にありました。様々な意味で、可能性を探り元気になることが必要な「時代」と捉えました。これらの点からシンポジウムを企画し、登壇者の実践である展覧会「一麦寮 色とかたち展 -素材がうたう-」(京都教育大学附属図書館企画展示室にて)を開催いたしました。

 学会発表の側面では、口頭発表は5室で、発表登録64件、62件の発表がありました。造形論から学校論、美術教育論など幅広いジャンルの発表があり、ある程度グループ化して聞いていただけるようにと試みましたが、かなり困難な状況でした。

 ポスター発表は、17件、ポスター展示が2件と多数の発表がありました。ポスター発表は、2日目で2室を発表会場としました。少しでも予め見ていただけるように初日から展示可能としました。ポスター発表当日は、かなり熱気に溢れた交流の場となり、自由な質疑と相互交流の場となりました。また実物資料等のリアルな発表が一層場を活気に溢れる状況にしていました。一方、京都教育大学には、展示用パネルが無くレンタルで借りての実施でした。発表者も多かったので、実行委員会としては、予算面・準備面で課題が多い企画でした。どの大学でも大会を引き受けられるようにしようとすると、発表者の参加費に課金する、学会から別立ての予算とするなどの工夫が必要だと思われます。

 学部生の研究発表は美術教育学生会議とよばれていますが、学生さんの自主的・主体的ご研究や取り組みやエネルギーを感じさせる印象深い会となりました。

 懇親会は、10月12日(土)に午後7:00~京都タワーホテル(9階「飛雲の間」)で開催しました。124人のご参加をえました。「京都味巡り」と称した企画時間をもって、精進料理や京料理の雰囲気を味わっていただこうと、「麩まんじゅう」(五条大橋のたもと半兵衛「京なま麸」(植物性たんぱく)と伏見の増田徳兵衛商店 月の桂(にごり酒)を味わっていただきました。また、それぞれの方の時間は少なかったのですが、北海道を起点として全国の話を伺うことができました。

2.今後の課題( 内向きの取り組みと外向きの取り組み)

本学会の継続的な取り組みである口頭発表やポスター発表・ポスター展示、学部生への取り組みなど、かなり発表の方法は増加傾向にあり、学術交流の場が保証されてきていると考えられます。ところが、今日の美術科が置かれているかなり厳しい状況を考えると、図画工作や美術の素晴らしさを外に訴えていく社会的責務があるのではないでしょうか。前者を内向きの取り組みとすると、ものづくりや絵を描くことなどの重要性を外にアピールする取り組みは外向きの取り組みといえるでしょう。京都大会は、外向きの取り組みができなかったと反省しています。メディアは取り上げたのか?地域教育との関係は深まったのかという点です。今後本会の全国的な繋がりを生かして、「美術教育は、素晴らしい!!」という声が日本全国に大きくなっていく必要があります。是非芸術の評価を外部から受けられるようにしていくべきではないかと考えます。

3.お詫び

 最後になりましたが、口頭発表で、当日やむをえない理由でご発表をお取りやめになられたお二人の方について、実行委員会のメールシステムが不十分で、発表会場に上手くご連絡できませんでした。上中良子(京都橘大学)様、深田資子(広島大学大学院)様ならびに、聴講をご予定いただいた関係各位には多大なご迷惑をおかけしました。この場をおかりしお詫びいたします。

 以上、ご報告をいたし、御礼と感謝に代えます。 

第51回大会シンポジュウムと関連展覧会の概要

1.シンポジウムについて

 シンポジウムのテーマは、「「ひと」「感性」「表現」の可能性 <私の提言>」でした。よく、勤務する校種間や専門とする分野間の違いが垣根となり、それを越えて議論することが出来ない場合があります。冒頭、司会の竹内博氏(京都教育大学名誉教授、美術科教育)から、「今日はご参加いただいている先生方の専門視点を一度取り払っていただいて、人間存在の根本問題に関わる感性について、語り合いたい」と提起されました。なお、本シンポジウムの登壇者の方には、研究発表概要集(pp.15-21)にそれぞれA4、2ページにわたる概要をお書きいただいてご提言いただきました。研究発表概要集をご参照いただければ幸いです。

 最初のパネリストは岡本哲雄氏(関西学院大学教授、教育哲学)でした。「吉永氏や田中氏のご経験やご高察に、フランクルの考え方を添えさせていただくとどんな地平が開かれてくるのか私自身も楽しみである」とシンポジウムの位置づけを話され、オーストリアの精神科医ヴィクトール・エミール・フランクルの教育思想(『人間とは何か』など)から、人の可能性を見つめる視点について提言をいただきました。ひとは、それぞれの状況において、独自で唯一無 二の存在の「意味」(可能性)を実現することを積み重ね、人生に対しての「責任性」、すなわち人生に「応答する力を 養う・・・」との見方が提示されました。人生に落胆するのではなく、人生から人が期待され我々が応えるのである という観点の転回です。さらに「個々の人間生成はすべて、 究極的にはいつも新しい奇跡である。」(『制約せざる人間)という教育者が直面するかもしれない独自な見方も提起されました。

 次に、人間発達を視野に入れるために、社会福祉施設の創設に関わってこられた、吉永太市氏(旧一麦寮長)、田中敬三氏(旧第二びわこ学園粘土室担当)の両氏のご提言をいただきました。吉永氏は、当時知的障害の子どもには自発性がないと受け止められていた実態をひもとき、あらゆる人に自発性が存在していることを提言されました。そして、その実践例を企画展で提示していただきました。一麦 寮は、近江学園を開いた画家田村一二氏を初代寮長とする学園で、造形活動を「生産的な粘土活動」から「自由な造形活動」へと進めていく教育理念が流れています。

田中敬三氏は、重症心身障児(者)のフィールドで、この芸術原理の強靱さを見つめた実践家です。吉永太市氏に教えをこいながら、粘土がどんな教師よりも園生さんによりそって歩んでいる姿を捉えようとします。この実践は、岩波ジュニア新書602でお読みいただけます。ご発表は、社会福祉法人びわこ学園理事長山崎正策氏のご協力とあとおしで実現しました。

パネリストの3先生には、無理なお願いにもかかわらず、快くお引き受けいただき、重大なテーマに光を当てていただきました。心より御礼申しあげます。 

2.関連する展覧会について

 シンポジウムの内容を肌で感じていただけるようにしたいと考え、2013年10月1日[火]~31日[木]に、社会福祉法人大木会一麦(旧名一麦寮)の寮生の作品展を開催しました(於:学内の新附属図書館企画展示室・オープンスペース)。一麦の作品群は、岡本太郎氏が高く評価し、陶芸家八木一夫氏も関わってこられた作品群でもあります。絵画58点、粘土の作品100点、切り絵17点、布や糸の造形作品42点、総数217点を展示しました。企画側が展示している時も、作品の色やかたちは、光のような輝きにかわり私たちの目の前に現れてくるようでもあります。作り手の寮生も展覧会を見に来てくれました。来場者は芳名録 記帳者だけで635人でした。ご報告して、一麦様はじめ関係者の方々への御礼に代えたく思います。なお吉永氏の実 践は、次の文献でお読みいただけます。また、会場で、初めてご覧になる方のために、数点の写真撮影を認めていました。ご発表になる場合は、一麦の許諾が必要となります。必ず下記にお問い合わせくださいますようお願いいたします。

○竹内博、春日明夫、長町充家、村田利裕編(2005)『アート 教育を学ぶ人のために』、世界思想社、pp.51-64

○一麦 住所:湖南市東寺2丁目2-1 TEL:0748-77-3029

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