平成24年度 代表挨拶

『美術教育の活力創出に必要な人的つながり』

 

平成25年度全国美術部門代表  大嶋 彰(滋賀大学)

 

現在、国立大学では「大学改革実行プラン」(平成24 年6 月)を踏まえた「ミッションの再定義」に向け、全力をあげた対応に追われている。特に教員養成大学・学部の社会的役割に対しては厳しい要求が突きつけられている。各大学の強みや特色を伸長し、実践型のカリキュラムへの転換などによって教員の質の向上のために機能強化を図ること、それ自体のミッションに異論はない。本会報の前号で西村俊夫前副代表が述べたように、平成13 年の通称「在り方懇」で他学部とは違う教員養成学部独自の教科内容の必要性を指摘されて以来、いまだ十分には解決されないまま今日に至っていることは少なからず認識せざるをえないからである。

 一方、国立大学協会が取りまとめた改革に関するステートメント『「国立大学改革」の基本的考え方について―国立大学の自主的・自律的な機能強化を目指して―』(平成25年5 月2 日)では、「規模や組織形態により種別化し、機能を分化し固定化する方向で解決しようとする発想や手法は取るべきではない。短絡的な役割分担は、国立大学総体の縮小を招き、結果として国立大学総体が有する多様性を失わせるだけである。」としている。目に見える形や成果として明確にさせたいポリティカルな要求に対して、自主的・自律的な改革により、「有機的な連携システムの高度化を図る中で解決していくべきである」とする国大協の主張は、私たち当事者としては強く堅持していきたい姿勢である。

 しかし、時代の激変と相まって押し寄せるポリティカルな要求にあがなうのは容易なことではない。特に「教育」にあっては、その「質」を深く掘り下げることがようやく緒に就いたばかりといった現状であることは、その困難さを物語っている。しかも、その「質」は容易に全貌を現さないのである。中でも美術教育はもっとも困難な教科であるといっていい。現代美術の動向は限りなく拡張と拡散を推し進め、そのコンテキストやディシプリンは常に逸脱へと向いている一方で、「色と形に感動する」という人間のまさに根源的な統合能力は、すべての教科の土台でもあるほど複雑で広大な地平を抱えているからである。

 さて、いくら嘆いてみても何も始まらないが、教大協全国美術部門には一つの「希望」が生まれ始めていることだけは記しておきたいと思う。それは平成21 年度から始まった教科内容に関する検討会のことである。平成24 年度から「特別課題検討委員会」と名称を改め、主に関東地域の教科専門担当者によって頻繁に検討会が持たれている。今春には「創造性」をキーワードに報告書を作成し、今後のさらなる議論に向けた指針を提示したところである。前述したように、教員養成における美術教育の教科内容は一朝一夕に捉えられるものではないが、ここで「希望」といったのはその検討会の在り方である。これだけの難問に立ち向かうことに対して自然と協働性に開かれていることは、私の

ような世代には見られなかったことであり、美術教育の活力創出に欠かせない新たな人的つながりが、大学を超えて生まれている。

 10 月に開催される京都大会では、「子どもの側からみた教科内容学」というテーマで新たな局面を提示する予定であるが、検討会の雰囲気のように「難問を楽しむ」ことがこれからの「希望」と感じている。

 

(日本教育大学協会 「全国美術部門No.45」 平成25年9月発行)