宮城大会(平成23年度)

■宮城大会を振り返って

大会実行委員長 立原慶一(宮城教育大学)

第50回大学美術教育学会は平成23年9月24日(土)と25(日)の両日、仙台市の宮城教育大学で開催された。震災後の風評被害もあり参加者は少ないとの予想に反し、総数は 207 名に及んだ。研究発表は 70 件、ポスターセッションは9件、ポスター展示は4件が行われた。司会業務に携わって下さった東北・関東地区在住の会員 20 名、概要集のデザインを担当して下さった秋田大学の石井宏一准教授に、この場を借りて御礼申し上げたい。
仙台市における厳しい宿泊状況にも拘わらず、懇親会に思った以上の会員に出席していただき、主催者側として嬉しく感じた。仙台名物の「牛タン焼き」と「笹かまぼこ」を会場に用意できたことは、宮城教育大学スタッフによる歓迎の気持ちと受け取ってほしい。
 以上、大会は盛況に終わり安堵したのだが、それもつかの間、複数の匿名会員から以下のような投書が舞い込んできた。研究発表については学術性の薄い、平板な報告がなされただけ。しかもその傾向はこれまでもあったが、宮城大会で一段と強く感じた。こうした厳しい内容のものであった。当初、筆者としてはいささか辛口に過ぎはしないか、と発表者を庇いたかった。だが、そう言われてみればなるほどと納得するような、口頭発表も一部に見られたように思う。次の大分大会では、もうその悪弊を断ち切ってほしい。
シンポジウムに対するフロアーからの意見や要望として、当日、紹介仕切れなかったものを項目別にまとめてみた。紙数の関係上、全部を網羅できない点はお許しいただきたい。
・美術教育は何故大切なのか、それによって何が獲得できるのか。子どもからのこうした質問にいかに答えたらよいのか。また美術教育が子どもを救えるとしたら、どのような部分なのか。広く国民が納得するような立論が必要。それと関連づけて、シンポジウムの趣旨にある「最小限残さなければならない体験内容、育 成すべき資質や能力」とは何か、に答えるべき。
・学校の限られた時間内で教育効果を上げる方法や、まさにシンポジウムの趣旨とされた「短期型美術教員養成の決定版」を提示すべき。
・美術教育は受験体制の中で隅っこに追いやられている。児童・生徒の学習環境を変えず、いくら美術教育の重要性を謳っても無駄。美術教師の力量や問題意識、教員採用のあり方をも含めた広い範囲で、美術教育を立て直すべき制度上の補強が必要。
・一人の制作者の立場から言えることだが、個に向かう表現と社会に向かう表現とは矛盾せず、自己理解は他者理解に通じ相互理解を促すのではないか。また歴史的に見て、美術表現における個と共同体の関係は長く焦眉の課題であり続けた。その両義性こそ、美術及び美術教育が存立してきた要因ではないのか。ちなみに被災地では、人が密になることで日常性が失われた。そこに非日常性を趣旨とするアート支援が入ってきて、地域住民との間にミスマッチを来した。震災後、人との透き間、つなぐ間-「間」は美術をめぐる個と共同体の関係について、新たな切り口を提起しうるのではないか、と筆者は考える。

■第 50 回宮城大会シンポジウム概要 

○日時:2012 年9月24 日(土)16:10~17:30
○会場:宮城教育大学 2号館 2F
テーマ:「美術教育、ゼロからの出発」
<趣旨>
 第一に現代の日本社会から、小・中学校や民間施設における美術教育というものが一切消滅してしまったら、文化的、経済的、民族的にどのような損失や弊害が起こるのだろうか。第二にその探求を前提として、美術教育の実施が最後の一皮のみ残されたとして、これだけは是非残さなければならない体験内容と、育成しなければならない能力を見極める。
一体何を重大な損失や弊害と捉えるかによって、何を伝達・指導すべきなのかの優先順位が変わってくる。ここに各人各様で美術教育観の相違が認められる。この論点をめぐってフロアーから認識論的なものばかりでなく、実践を奮起させるような意見が提起されることを期待して行われた。

パネリスト: 金子 一夫(茨城大学教授)
          降簱  孝(山形大学教授)
          新妻 健悦(アトリエ・コパン主宰)
司 会    : 立原 慶一(宮城教育大学教授)
新妻健悦氏には美術活動の楽しみや喜び、ワクワク感の大切さ、美術に親しませることの意義という観点から、金子一夫氏には美術は認知的であり、制作や鑑賞は認知能力であるという立場から、理論的並びに教育実践的に論じて頂いた。降簱孝氏には、教員の現実という立場から最低限必要な教員の力量とは何か、最少の時間で一人前の美術・図工科教師を育てる方法とは何かについてお話し頂いた。パネリスト三氏は以上の論点を中心に提言し、最後にフロアーからの質問ペーパーに応える形でしめくくった。なお、大会期間中に、シンポジウム関連展覧会「アトリエ・コパン展」(於・図書館ギャラリー)が開催された。

■口頭研究発表
口頭研究発表は、「実践」「工作、内容」「鑑賞、プロジェクト」「歴史」「理論、実践」を柱として第1 会場から第 5 会場に割り当てられた。第 1 日目(9月24 日(土))に 35 件の発表が、第 2日目(9 月25 日(日))に 35 件の発表の発表がなされた。両日合わせて 70 件の発表件数であった。発表時間は、発表が 20 分、質疑応答が 7分とされ、前回よりも質疑時間を 2 分ほど多めに割いている。発表内容の詳細については、「宮城大会概要集」(2011)を参照されたい。

■ポスターセッションによる研究発表
口頭による研究発表のほか、2号館 228 教室を会場
して、ポスターセッションによる研究発表が行われた。
そうのち、ポスター展示は 13 件あり終日展示された。またその中で、 9 月 25 日(日)13:00~13:27の時間帯にポスター発表が9件実施され、見学者へのプレゼンテーションや質疑・応答を通した研究の交流 が深められていた。