愛知大会(平成22年度)

平成21年度日本教育大学協会全国美術部門協議会

愛知大会開催実行委員長 宇納一公(愛知教育大学)

ちょうど今から一年前、秋の大会に向けて高知大学からの引き継ぎを終えた我々は、東海地区の大学教員の方々に愛知にお集まり願い準備に入りました。一番の心配は会場候補地の選定でした。名古屋らしくしかも参加者の利便性も考慮して、愛知教育大学を第一候補に、名古屋市内の会議場も視野に調査検討を重ねました。若い先生方の提案と年配の先生方の意見は分かれ、しばらく不安は続きました。しかし、名古屋の中心地でやることに決めてからは運営組織の検討を重ね、あらゆる努力を惜しまず当日まで一丸となって準備をして、無事開催まで辿りつくことが出来ました。つくづく愛教大の教員の方々の頼もしさを思い知りました。大会会場では、東海地区の岐阜大学・三重大学・静岡大学の先生方には、研究発表の司会・大会のサポートの面でたいへんお世話になりました。
今回、私にとって一番の収穫は、若い先生方の提案でした。資金繰りや大会参加者の把握、会場設営から印刷物の手配、補助学生の教育からこまごまとした物品の手配や懇親会の内容の検討など感心することばかりでした。いつの間にか何をするにも用心深く慎重になっている私に対して、新たなことに挑戦する意欲を沸かしてくれたのですから。この愛知大会では、役割ごとに担当者を決めて運営にあたりました。それぞれ分担した内容は次のとおりです。「本部総務局との連絡調整・大会運営総括・シンポジウムの企画」「書類作成・会計管理全般」「大会全体のデザインン計画・概要集の編集やデザイン」「会場の準備・会場設営・大会当日のスケジュール管理・懇親会の企画と運営」「部門委員会の準備・研究発表の管理」です。また、愛知教育大学の大学院生と学部学生計16名が運営の補助にあたってくれました。
また愛知大会に関連する印刷物の一部は、今回協賛いただいたメーカーのプリンターを使って印刷させていただきましたが、このとき使用した大型プリンターもポスターセッション入口会場に展示していただき、参加者の方々にご覧いただくことができました。

口頭研究発表について 
研究発表担当 鷹巣 純(愛知教育大学)
愛知大会では、初めての試みとして、研究発表を3部門に分けて行なった。すなわち、ポスター展示、ポスターセッション、口頭発表、の3部門である。 新規2部門については別項に譲り、ここでは従来から実施されてきた口頭発表について報告したい。
愛知大会での口頭発表は、44件の発表希望が寄せられ、全件発表していただくために9月26・27日の両日、各5会場を用意した。施設の構造上の制約で 手狭な会場が多かったため、参加者の皆さんにはご迷惑をおかけすることもあったが、狭い分、発表者 と聴講者の距離感が近く、熱心な討議を引き起こす効果もあったようである。
口頭発表者の内訳としては、大学関係者23名、現職 学校教員7名(附属学校1名、一般校6名)、大学院生・研究生20名であった(共同研究者を含むので合 計は発表件数と一致しない)。将来の美術教育を担う若い学会員の活発な活躍があったこと、多忙さを増す学校業務の中で現職学校教員からも積極的な参加のあったことは、美術教育の未来にとって喜ばしいことである。
さて愛知大会では、大会実行委員会の業務省力化をはかり、申込み・発表要旨など口頭発表に関わるすべての通信・入稿をデジタルに一本化した。結果として少人数の担当者でも大きな混乱もなく業務が遂行できたわけだが、それは発表者の皆さんの好意的なご協力があったからこそのことである。そのことを記し、お礼申し上げます。

課題研究 「メディアと美術教育」の報告
   課題研究担当 藤江 充(愛知教育大学)
9月26 日(土)、午後 1 時からデザインホールで開催され、最初にコーディネーターの藤江充(愛知教育大学)から、放送、情報機器、新聞、そしてマンガというメディアを使って実践されてきたパネラーから、子どもの生活をとりまくメディアと学校教育で活用できるメディアとをクロスさせる美術教育の可能性について提言を期待するという趣旨が説明された。
 基調提案では「放送メディアと美術教育」と題して、NHK で主に教育番組を制作され、現在、大学でメディア教育を担当されている酒井和行氏から、放送番組というのは編集する人の意図が入ってしまうので教室のなかでどう使われるかを悩みながら考えたこと、疑似体験と実際の体験とのちがいを踏まえて美術教育とメディア・リテラシーとのあり方についての提案があった。上山浩氏(三重大学)からは、映像メディアを使った美術教育の世代的な変遷について述べられ、教員養成学部の授業で3Dムービーなど映像メディアを扱った授業実践や学生の作品が紹介され、美術教育における表現の可能性を拓くメディアの扱い方に関する提案があった。富山邦夫氏(愛知教育大学)からは、大学生の授業で NIE(Newspaper in Education:教育に新聞を)という新聞社とのコラボレーションの授業で「未来の教員へ向けての新聞活用」という「総合演習」の事例が紹介された。新聞は古いメディアではあるが、学生自身が新聞を作成することで、「取材力」、「調査力」などが身につき、デザイン教育の基礎にもなり、教員にも必要な力となるという提案があった。
塚越勇吾氏(名古屋市立・北陵中学校)からは、美術科授業で「マンガ」を取り上げ、いわゆるマンガ的な描写が生徒にとってなじみやすい表現手段であること、既成の4コママンガを1コマずつばらして、それらを組み合わせて自分でストーリーを創作していく導入の事例などを通して、マンガを美術教育で活用していくための提案があった。時間の関係で、フロアからの質問は少なかったが、実体験とメディアの疑似体験の関連などに関して質問があった。今回のシンポジウムは、さらに多様なメディアを使った美術教育の可能性を探る一つのきっかけになるであろう

愛知大会でのポスター発表の試み 
総務局理事 三澤一実(武蔵野美術大学)
第47回大学美術教育学会高知大会で実験的に行われたポスター発表は、総会での論議を経て、翌年の 愛知大会では試行という形で行うことが承認された。
総会での議論では、主にポスターの質の問題、則ち口頭発表と同等もしくはそれ以上の内容の質が保障できるのかという懸念と、一方では非会員を含め、 特に現場教員の実践などをポスターで発表し学会の開放を進めたいという意見であった。この両者を勘案し、愛知大会では口頭発表と同等の位置づけであるポスターセッション部門と、ポスターを展示するのみのポスター展示部門の2系統で試みることとした。

■ポスターセッション
「触れる彫刻制作・彫刻を楽しむ空間作り」 野村和弘(愛知教育大学非常勤講師)
「造形ワークショップにおけるファシリテーション」 渡辺一洋(育英短期大学)
「中・大連携による鑑賞活動の可能性-『旅するムサビプロジェクト』の成果-」 鈴木斉(羽村市立第三中学校教諭)
「創造のきっかけを作るワークショップ『かいてみようシ ルエット』」 木谷安憲(東京芸術大学大学院・埼玉県立芸術総合高校)
「多様な生徒の興味関心を高め、制作意欲を継続させる50のオリジナル題材開発」 黒木健(秋田県立仁賀保高等学校教諭)
「芸術における地域文化の創造について」 渡邊晃一(福島大学)
「彫刻の鑑賞方法の提案とその実践」 奥西麻由子(埼玉学園大学非常勤講師)
「美術鑑賞教材『Visual Thinking Strategies』に関する考察」 渡部晃子(筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程 芸術専攻)
「透明プラスチック素材の可能性についての研究 〜造形ワークショップの実践を通して 〜」 川原崎知洋(静岡大学教育学部美術教育講座)
「地域文化を創出するアートスペースの取り組み—KAPLコシガヤアートポイント・ラボの実践—」 浅見俊哉(KAPL代表/八潮市立八條中学校)
「現代アートな発想で思考の柔軟性を鍛える実践例」 加藤万也(愛知教育大学)
「色相環に収納する絵の具」 渡辺邦夫(横浜国立大学)

■ポスター展示
「けはいをきくこと…北方圏の森の思想Ⅱ-フィールドワークによる空間造形-」 坂巻正美(北海道教育大学岩見沢校)
「大学院授業における鑑賞補助教材開発の実践研究」 小池研二(横浜国立大学)
「子どもの造形活動における保護者のかかわりについて −東御市梅野記念絵画館の実践より−」 桜井弥生(NAGANO・アートチャレンジ教室)
「桃山時代・江戸時代の陶磁器の絵柄の鑑賞について」 桜井剛(清泉女学院短期大学)
「社会に対し美術教育の価値を伝える活動を」 山崎正明(千歳市立北斗中学校教諭)
「山梨大学 井坂研究室における試み1・2」 井坂健一郎(山梨大学)
「視覚混合を表出する絵画技法についての一考察」 桶田洋明(鹿児島大学教育学部美術教育講座)
「児童のイメージ形成と学習環境とのかかわり」 大島孝明/(富山大学人間発達科学部附属小学校・山大学大学院)
「飛翔する鳥『無限連続パズル』」 渡辺邦夫(横浜国立大学)
「つながりから広がる子供の創造世界」 大杉健(府中市立若松小学校)

合わせて、22件40枚のポスターは内容も充実しており、またセッションでは発表者に対する質問も後 を絶たず盛会となった。発表者と参加者の関係が近づき好評であった。今後も引き続き実施したい。